前々回は、悩むのは自分の性質がそうさせているだけということ(同じ出来事を経験しても全く問題にしない人も多いという事実)、そして前回は、今はショックな出来事が起きてからまだ時間が経っていないから問題にしているだけ(解決しなくても時間が経つと忘れてしまう類の問題)と認識することが大事であると述べました。これは、なるべく自分の状態を客観的に観察する視点を持ち、精神的に泥沼に嵌らないようにするためです。(悩んでいるときは非常に近視眼的になります。思考の視野が狭まるのです)
それらをしっかりと自覚したら、あとは悪夢に囚われている精神状態を早く回復させるための試みをします。
客観的に自分を見る目を持って、現在の精神状態が如何に不合理なものであるかを理解すれば、スッキリと精神状態が戻るのであれば良いのですが、感情はそう簡単に収まってくれません。理性で感情を説得してもあまり効果はないのです。それは、日本語が分からない外国人に日本語で説得するようなものです。感情で収まりがつかないことは、感情に影響を与える行動で訴えなければなりません。
私は昔、ショックな出来事に囚われている時期がありました。来る日も来る日も何もする気が起きず、そのことが頭から離れずに気持ちが落ち込んでいたのです。しかし「このままではいけない」と、その出来事を払拭するために意識的に2つのことをやるようにしました。一つは、スポーツジムへ行って筋力トレーニングをすること。そして、もう一つはアメリカのコメディドラマのDVDを観て笑う時間を作ることでした。
今振り返っても、当時の苦悩を乗り越えられたのは、やはりその2つを意識的にやっていたことが大きかったと思います。何もしなくてもいずれ時間が解決したでしょう。しかし、その行動のおかげで立ち直る時期をかなり短縮することができたのです。これも感情に訴えかける(気分を変えるように仕向ける)行動を起こしたことによる効果です。
感情を改善させる合理的な手順は以下を参考にしてください。(このような方法を専門用語でコーピングといいます)
- 少しでも気分を回復できそうな事をできるだけ挙げる。「好きな音楽を聴く」「30分、散歩をする」など、最低でも20個くらいは書き出します。(他愛ないことでも意外と効果がある場合もありますので、色々と挙げてみましょう)
- 悪夢に囚われた精神状態のときに、そのリストの中から効果の高そうなものから順に色々とやってみる。
- 実行した後に気持ちの変化を査定する。そして、効果のあったものだけリストに残す。
- 次回以降、精神状態が悪化したときは、効果のあったものだけをやるようにする。
この対処法の壁は「とてもそんなことをする気になれない」という気持ちを乗り越えることです。苦悩しているときというのは、大抵は乗り気になれないものです。しかし、やっているうちに少しは気が晴れてきて、終わった頃にはやってよかったと思えます。
こういった解消行動は、苦悩していることから少しでも気を逸らすという意味でも大きいものです。以前、「悪夢のように囚われ、繰り返し思い出される」と書きましたが、繰り返し思い出すことは、忘れないように復習するのと同じ行為になってしまうのです。そして、繰り返し思い出す度にその事が更に自分にとって重大なことになっていき、精神的に苦しくなりやすくなるという負のスパイラルに陥ってしまうのです。解消行動を取ることで、他のことに気を向けるようにすることはとても大事なことです。
前回、パワハラを受けることは「毒」を注射されたようなものと書きましたが、逆に精神状態の回復を早める行動は、解毒するための注射を打つ行為です。あなたにとって効果の高い「血清」を見つけましょう。
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